8月28日の米国株式市場は3指数がそろって下落した。S&P500は前日比0.25%安の7711.76、ダウ工業株30種平均は0.02%安の53559.99(下落幅9.45ポイント)とほぼ横ばい、ナスダック総合指数は0.52%安の26402.42で引けた。週間ではプラス圏を確保したものの、この日はFRB(米連邦準備制度理事会)のウォーシュ議長がインフレ動向への懸念を示したことが重しとなった。ウォーシュ議長は物価上昇圧力が目立って鈍化していないとの認識を示し、当局が2%目標達成に向けてなお対応が必要になる可能性を示唆。これを受け長期金利が上昇し株式には売り圧力がかかった。ナスダックはエヌビディアやインテルなど半導体株の下落が指数を押し下げた。VIX(恐怖指数)は14.43と前日比0.55%低下しており、指数全体の下落幅は限定的で市場の不安心理自体は大きく高まらなかった。
FRB議長発言で株安、PayPal急落・エラスティック急伸
8月28日の米株式市場はFRB議長のインフレ警戒発言を受け3指数そろって下落。ダウは横ばい圏、ナスダックは半導体安が重しに。PayPal買収断念で急落、Marvellは好決算でも売られ、一方エラスティックは決算好感で急伸するなど個別材料が交錯した。
市場概況
セクター動向
半導体セクターが軟調で、ナスダック下落の主因となった。マーベル・テクノロジー(MRVL)が好決算にもかかわらず10%超下落したほか、エヌビディアやインテルにも売りが波及し、AI・半導体関連への高い期待値と割高なバリュエーションを背景にした利益確定売りが目立った。決済・フィンテックセクターではペイパル(PYPL)がアドベント・インターナショナルとストライプによる買収断念報道を受けて急落し、セクター全体の重しとなった。一方、企業向けソフトウェア・SaaS領域は決算発表が相次ぐ中で明暗が分かれ、エラスティック(ESTC)は好決算とAI関連事業の伸びを受けて急伸したのに対し、データセキュリティ企業のルーブリック(RBRK)は決算内容が良好だったにもかかわらず「材料出尽くし」による利益確定売りで時間外を含め軟調となった。素材セクターではソルスティス・アドバンスト・マテリアルズ(SOLS)がM&A撤回・自社株買い発表を受けて急伸し、個別材料による物色が目立つ1日となった。
注目銘柄
- エラスティック N.V. (ESTC): +19.31% — 2027会計年度第1四半期決算で調整後EPS0.70ドル(予想0.58ドル)、売上高4億7811万ドル(前年比15%増)と市場予想を上回り、通期売上高見通しを20億ドルに引き上げた。年間契約額10万ドル超の大口顧客のうちAI関連用途での利用が37%に達するなどAI需要の取り込みが評価され株価は年初来高値圏に上昇した。
- ソルスティス・アドバンスト・マテリアルズ (SOLS): +12.76% — エレメント・ソリューションズとの合併計画を株主の反発を受けて双方合意のうえ撤回すると発表。あわせて5億ドル規模の自社株買いプログラムを承認し、第3四半期・通期業績見通しを再確認したことが好感され株価が急伸した。
- フラッター・エンターテインメント (FLUT): +7.13% — 8月5日発表の第2四半期決算でEBITDAは予想を上回ったものの、米国での顧客獲得投資拡大を理由に通期売上高見通しを従来の183億ドルから174億~179億ドルに引き下げていた経緯があり、この日は市場全体の弱さの中で見直し買いが入った。
- ワークデイ (WDAY): +5.76% — 8月27日発表の第2四半期決算で売上高が前年比12.8%増の26.5億ドルとなり市場予想を上回ったほか、非GAAPベースのEPSは2.75ドルと予想を5.3%上回った。サブスクリプション収益の伸びとAI需要の取り込みが評価され株価が上昇した。
- ドミノ・ピザ (DPZ): +5.40% — 直近の第2四半期決算(7月20日発表)ではサプライチェーン事業の伸びが外食部門の需要鈍化を補い、売上高が市場予想をわずかに上回っていた。8月には全米展開する新商品「ザ・ドミノ」の発売など話題性のある施策が続いており、好感した買いが入ったとみられる。
- ルーブリック (RBRK): -13.05% — 前日発表の第2四半期決算はEPS0.20ドル(予想0.04ドル)、売上高4億2730万ドル(予想3億9630万ドル)と大幅に上振れし、2027会計年度のEPS・売上高見通しも引き上げたが、決算発表前に株価が52週高値圏まで買われていたことから「好材料出尽くし」による利益確定売りが優勢となった。
- ペイパル・ホールディングス (PYPL): -12.71% — 投資会社アドベント・インターナショナルと決済大手ストライプの連合が検討していた1株60.50ドル(総額500億ドル超)規模の買収提案を撤回したと報じられ、買収期待で買われていた分の反動売りが直撃した。ペイパル取締役会は提示価格を不十分と判断し、規制・資金調達面のハードルも交渉難航の一因とされる。
- IREN リミテッド (IREN): -12.53% — 2026会計年度第4四半期決算で旧式マイニング機材に絡む6億3880万ドルの減損を計上し、通期最終損益が7億260万ドルの赤字に転落。AIクラウド事業の売上高は前年の1640万ドルから1億2880万ドルへ拡大したものの、契約済み年間経常収益(ARR)40億ドルのうち実際に稼働しているのは10億ドルにとどまるとの説明が嫌気され、ビットコインマイニングからAIクラウドへの転換に対する懸念が売りを誘った。
- マーベル・テクノロジー (MRVL): -10.28% — 2027会計年度第2四半期決算はEPS0.94ドル(予想0.93ドル)、売上高27.4億ドル(予想27.1億ドル、前年比37%増)、GAAP利益は前年比50%増と好調で、次期見通しも前年比約50%成長・通期見通し引き上げと強気だったが、株価が決算前から60倍超の予想PERまで買われ「完璧」な内容が既に織り込まれていたため、失望売りが優勢となった。
- テンパス AI (TEM): -9.41% — 直近では約15億ドル規模のパーソナリス買収発表(8月8日)による統合リスク懸念や、8月24日の利益確定売り(FDA承認材料出尽くし)など複数の下落材料が重なっており、この日も高値警戒感からの調整売りが続いたとみられる。第2四半期決算自体は売上高が予想をやや上回り、通期売上高見通しを約16億ドルに引き上げ、純利益も黒字化するなど事業のファンダメンタルズは底堅い。
為替・金利動向
ドル円は159.08円近辺で推移し、前営業日終値158.98円から小幅に円安ドル高となった。米10年国債利回りはウォーシュFRB議長のインフレ警戒発言を受けて上昇し、一時4.7%台に乗せたあと上げ幅を縮小して4.73%(前日比+0.06%ポイント)で終えた。日米金利差の高止まりがドル高・円安基調を下支えしている。日本の10年国債利回りは2.90%(前日比+0.01%ポイント)で推移した。
今後の注目点
市場では、FRBのウォーシュ議長によるインフレ警戒発言を受けて、今後発表される米インフレ関連指標や雇用統計、および次回FOMCでの金融政策スタンスへの関心が一段と高まっている。企業決算では今後もソフトウェア・小売関連企業の四半期決算発表が続く見込みで、AI関連投資の持続性や消費動向を見極める材料として注目される。個別ではペイパルの買収交渉が完全に終了したのか、あるいは別の買い手や条件で再燃する可能性があるかも引き続き市場の関心事となりそうだ。また、半導体セクターでは高いバリュエーションに対する警戒感が強まっており、今後の決算発表でも「好決算でも売られる」反応が続くかが注目点となる。
