2026年9月8日の米国株式市場は3指数そろって下落した。ダウ工業株30種平均は前日比628.18ドル(1.18%)安の52786.07ドルで引け、S&P500は0.58%安の7673.52、ナスダック総合指数は0.32%安の26421.41で取引を終えた。サウジアラビアのエネルギー関連施設への夜間攻撃が報じられ、中東の地政学リスクが再燃したことが投資家心理を圧迫した。WTI原油先物は1バレル93ドル前後まで上昇し、イランが米国に対して弾道ミサイル関連で新たな威嚇発言を行うなど緊張が続いた。恐怖指数VIXは15.72(前日比+2.75%)に上昇し、警戒感の高まりを示した。前週発表された予想を上回る雇用統計を受けて9月のFOMCでの利上げ観測も意識され、長期金利上昇も株式市場の重しとなった。
中東緊張と原油高で主要3指数下落、ダウ1.18%安
サウジ石油施設への攻撃報道と中東情勢緊迫化で原油価格が上昇し、投資家心理を圧迫。ダウ平均は1.18%安と大幅下落、S&P500も0.58%安。VIXは上昇し警戒感が高まる一方、ノバルティスの臨床試験失敗を受け医薬品株が急落、半導体・クラウド関連は個別材料で急伸した。
市場概況
セクター動向
ヘルスケア・医薬品セクターが急落を主導した。ノバルティスが筋強直性ジストロフィー治療薬del-desiranおよびLp(a)低下薬pelacarsenの相次ぐ臨床試験失敗を発表し株価が急落、これを受けて同系統の薬剤を開発するアムジェンなど関連銘柄が連鎖安となった。医療機器セクターでもストライカーが供給制約問題を理由に下落するなど、ヘルスケア全般に売りが波及した。一方、半導体・クラウドインフラ関連はAI関連の個別材料により堅調で、データセンター向け光学部品・アナログ半導体を手掛ける企業やクラウドコンピューティング銘柄が軒並み大幅高となり、中東情勢の悪材料をよそに資金流入がみられた。全体としては地政学リスクによる景気敏感セクターの弱さと、AIテーマ株の物色という二極化した相場展開となった。
注目銘柄
- Roivant Sciences Ltd. (ROIV): +18.75% — 肺高血圧症治療薬候補「モスリシグアト」の中期臨床試験で主要評価項目を達成したと発表。135人を対象とした試験でプラセボと比較し肺血管圧・抵抗を16週時点で56.3%低下させ、これを受けジェフリーズが目標株価を42ドルから52ドルに引き上げ「買い」評価を継続したことも支援材料となった。
- DigitalOcean Holdings, Inc. (DOCN): +12.64% — ゴールドマン・サックス主催のテクノロジーカンファレンスでAIネイティブなクラウド戦略とAI推論ワークロードへの注力方針を説明し、投資家がAI推論特化型プロバイダーとしての立ち位置を好感して買いが集まった。
- CoreWeave, Inc. (CRWV): +11.72% — AIインフラ需要の強さとアナリストの強気評価継続が支援材料。直近四半期決算では売上高が前年比2倍以上に急増し受注残高も約1040億ドルに膨らんだほか、エヌビディアが出資比率を引き上げたことがAIクラウド・GPUインフラのエコシステムにおける同社の地位を裏付けたと受け止められた。
- Lumentum Holdings Inc. (LITE): +11.04% — アナリストによる強気の見通し引き上げを受けて上昇。AI関連の光学製品需要の高まりを背景に2028会計年度のEPSポテンシャルを1株当たり約40ドルとする見方が示され、AI関連投資テーマの中心銘柄として買いが継続した。
- Semtech Corporation (SMTC): +9.96% — 前週発表した四半期決算で市場予想を上回る増収増益とAIデータセンター向けの強気ガイダンスを示したことの好影響が継続。データセンター向け売上高は前年同期比91%増の1億ドルと過去最高を記録し、800G製品への旺盛な需要が確認されたことが評価されている。
- Novartis AG (NVS): -13.93% — 筋強直性ジストロフィー1型治療薬「del-desiran」の第3相試験(HARBOR試験)が主要評価項目で統計的有意差を示せず未達に終わったと発表。さらにLp(a)低下薬「pelacarsen」の第3相HORIZON試験も主要評価項目未達となり、1週間で3件目となる臨床試験の失敗が重なったことで株価は過去最悪水準の下落となった。
- Amgen Inc. (AMGN): -10.08% — ノバルティスのLp(a)低下薬pelacarsenの試験失敗を受け、同様のLp(a)阻害メカニズムを持つアムジェンの開発品olpasiran(第3相OCEAN(a)-Outcomes試験)の成功確率に疑念が生じ、セクター全体へ売りが波及。BMOキャピタルによる格下げも重なり下落に拍車をかけた。
- Howmet Aerospace Inc. (HWM): -10.70% — スペースXがガスタービン部品の内製化に乗り出すと発表したことを受け、航空機部品サプライヤーとしての競争優位性への懸念が継続。週初来の下落基調が9月8日も続き、朝方の取引で一時7%超下落する場面があった。アナリストの多くは行き過ぎた売りとして「買い場」との見方を維持している。
- Stryker Corporation (SYK): -8.81% — ウェルズ・ファーゴ主催のヘルスケアカンファレンスでCFOが末梢血管事業における製造上の供給制約が第3四半期から第4四半期にかけて逆風になると説明したことを受け急落。医療機器の在庫を顧客に十分供給できない状況が続いているとの発言が嫌気された。
為替・金利動向
米長期金利は上昇基調で推移し、10年債利回りは4.78%前後で始まった。前週発表された予想を上回る雇用統計を受け、9月のFOMCでの利上げ観測が強まったことが金利上昇の背景。ドルは中東情勢の緊迫化を受けた安全資産としての需要と金利上昇観測を支えに底堅く推移した。ドル円は一時1ドル=153円台まで円高が進行する場面がみられ、直近1週間ではおよそ154円台から160円台のレンジで大きく変動する不安定な値動きとなっている。原油高と地政学リスクを背景に、市場ではインフレ再燃への警戒とFRBの金融政策運営の難しさが意識されている。
今後の注目点
9月11日に8月分の消費者物価指数(CPI)が発表される予定で、インフレ動向とFRBの利上げ判断への影響が注目される。さらに9月15〜16日には連邦公開市場委員会(FOMC)が開催され、経済見通し(SEP)の改定を伴う重要な会合となる。現行の政策金利誘導目標レンジは3.50〜3.75%で、7月会合では据え置きが決定されており、今回の利上げ有無が市場の焦点となる。中東情勢の一段の悪化や原油価格のさらなる上昇があればインフレ圧力と株式市場への下押し圧力が強まる可能性があり、地政学リスクの推移からも目が離せない。また、ノバルティスの臨床試験失敗を受けたLp(a)関連薬開発を手掛ける製薬各社の追加コメントや、AI関連インフラ投資テーマの持続性を占う決算・カンファレンス発言にも引き続き関心が集まる。
